ごあいさつ

 

一橋大学大学院社会学研究科 教授  尾崎 正峰

諸先輩方には、一橋大学ソフトテニス部の活動に対して、日頃より有形無形さまざまなご支援をいただいておりますこと厚く御礼申し上げます。

今後とも、引き続き、ご支援をよろしくお願いいたします。

 

昨今の大学における「改革」はさまざまありますが、本学では今年度から「4学期制」に移行しました。自分の入学時は「通年」が当たり前でしたが、教員の立場になってから、四年一貫教育への移行による「半期」が主流の「2学期制」への転換に続いて2回目の制度変更になります。変更によって講義の方法や内容が変わる部分とそうでない部分があり、その塩梅をどうするか悩みつつ、今般あらためて講義の組み立てを検討するなかで、ふと、ある往年の名テニスプレイヤーのことを思い出しました。

 そのプレイヤーの名前は、アーサー・アッシュ(Arthur Ashe)。

諸先輩方はこの名前を懐かしく感じられるのではないかと拝察いたしますが、現役、あるいは卒業間もない若い世代の方々には、すぐにはぴんと来ないでしょうか(とはいえ、全米オープンのセンター・コートが「アーサー・アッシュ・スタジアム」と称されていますので、まったく知らないということもないでしょうか)。

かくいう私自身、高校時代の1975年、ウィンブルドンの覇者である程度の認識しかありませんでした。大学院に進学し、スポーツ研究に携わるようになって以来、アメリカにおける公民権運動の拡がりという社会の動きが、彼のプレイヤーとしての活躍の基盤を形成し、名門カリフォルニア大学への入学も果たし、引退後、多様な社会活動に尽力したことなど、少しずつですが、彼の存在の大きさを知るようになりました。

そうした認識の拡がりを導いてくださった、大学院の指導教官である川口智久名誉教授が、30年近く前、講義の際に資料として提示された新聞記事をあらためて読んでみようと探してみたものの見つからず、川口先生にお願いして情報をいただき、久しぶりに原文に接することができました。

その新聞記事とは、アッシュがニューヨークタイムズ(The New York Times, February 6, 1977)に寄稿した公開書簡のことで、そのタイトルは「子どもたちを図書館へ(Send Your Children to the Libraries)」。プロのアスリートになることの困難さを説き、そうした不確かな夢にすがるのではなく、子どもたちにしっかりとした教育を受けさせるべきである等々、彼の生い立ち、そして、彼の生き方に裏付けられた主張です。

 

30年ぶりに読み返した彼の言葉は、人生の中でのスポーツの意味とは何かという問いとともに、2020年向けて「喧噪」とすらいえる熱に浮かされたような状況になってきた現在に対して、時空を超えて警鐘を鳴らしているように感じました。