尾崎先生あいさつ

諸先輩方には、一橋大学ソフトテニス部の活動に対して、日頃より有形無形さまざまなご支援をいただいておりますこと厚く御礼申し上げます。

 

2018年は「明治150年」との声が喧しいと感じることもありましたが、研究代表を務める共同研究のための調査で福島県と宮城県に出かけた折、現地の博物館等で「戊辰(戦争)150年」との展示テーマを多く目にし、歴史の見方は、それぞれの立場、立ち位置を反映するという歴史学のイロハをあらためて感じることになりました。

時計の針を50年、私が子どもの頃に戻してみますと「明治100年」。その時、「明治は遠くなりにけり」なるフレーズがありましたが、「平成」の時代も終わりを迎えようとしている現在からしますと「昭和も遠くなりにけり」との思いを強くします。

担当する講義で、昭和期の「健康に関する政策の推移」をテーマにしたとき、学生は全員「平成生まれ」ですから「昭和」という時代について少しでも「実感」できるように何か手だてはないかと考えまして、<「昭和20年代から30年代初頭における生活環境」について、その時代を生きた人から聞き取り調査を行うこと>という課題を出しました。聞き取りの内容は、「食べ物(日常の献立、保存方法、「ごちそう」とされていたもの)」、「上下水道の状況」、「医療(地域に医者はいたか、病気になったときどうしたか)」などでした。

ほとんどの学生が祖父母の方々からの聞き取りでしたが、提出されたレポートを読むと、親族とはいえこれまで正面切って話をすることのなかった体験の「語り」を聞くことによって、知らない「過去」「歴史」にふれ、講義で取り上げられた事例の社会背景やその当時の生活状況にまで目をやることができたとする意見が多くありました。書籍や論文などの文字から得る知識や情報も重要ですが、実体験に基づく「語り」の意味についても感じ取ってもらえたものと思っています。また、私としても、それぞれ生きてこられた位置からの200弱もの「歴史」の「語り」にまとめてふれ、それらに対して興味が尽きなかったと同時に、想定以上のことをお話しいただいた方々が多くいらっしゃったことへの感謝の念でいっぱいでした。

このことから、現役学生にとって、「実感」と「手応え」のある「歴史の語り手」としての諸先輩方の存在はたいへん大きいものとあらためて感じています。交流の中でさまざまな「語り」をしていただき、学生もそれを楽しんでもらえればと願っています。

 

最後に、毎回のことで恐縮ですが、一橋大学におけるサークル活動は、学生の自主性と卒業生のバックアップ、このふたつを大きな柱として成り立つものであると考えております。諸先輩の皆様方には、今後とも、ご支援をよろしくお願いいたします。

 

一橋大学大学院社会学研究科 教授  尾崎 正峰