スポーツと「記憶」

諸先輩方には、一橋大学ソフトテニス部の活動に対して、日頃より有形無形さまざまなご支援をいただいておりますこと厚く御礼申し上げます。

 

2020オリンピック大会招致決定後、かつての「成功体験」として何かにつけて取り上げられる1964年の東京大会。同大会について「記憶」をキーワードとして解き明かすという共同研究の成果をこの4月に刊行予定ですが、諸先輩方もさまざまな「記憶」をお持ちのことでしょう。共同研究のプロセスでは、当時、幼稚園児であった自らの「記憶」と照らし合わせると共に、巷間言い慣わされてきた言説を検証する中で、当時のスポーツの有様、そして、政治、文化、人々の意識、世相など、社会のさまざまな実像を描き直すという面白さを味わうことができました。

 

「記憶」というキーワードから最近のスポーツ・シーンを俯瞰してみると、私にとって(テニスでなくて恐縮ですが)ラグビーに絡んだふたつの出来事が印象に残るものでした。

母校・浦和高校が、全国高校ラグビー大会での初勝利の余勢を駆ってベスト16にまで進み、王者桐蔭学園と一戦を交えるということで、元日、始発列車を乗り継いで「初詣」ならぬ「花園詣」へ。そんな行動に駆り立てたのは、浦和高校は体育の授業の実技種目にラグビーがあり、親しみがあることはもちろんですが、(どなたにも驚かれる)冬恒例の全校クラス対抗のラグビー大会で、40数年前、大学受験前にもかかわらずクラス全体で取り組み全校優勝したという、時を越えてなお鮮明な「記憶」ゆえのこと。

そして、ラグビーといえば、ラグビー・ワールドカップ2019の日本開催。「オーストラリアの社会とスポーツ」を研究テーマとしていることもあり、開催前に各メディアの取材を受けました。その中で、オーストラリアのラグビー事情に加えて日本開催のメリットと共に多くの難しさがあることもお話ししましたが(こうしたメディア取材の常として文字にはなりませんでしたが)、蓋を開けてみれば、ほとんどが杞憂に終わり、多くの人々の熱狂――“にわかファン”という言葉がこれほどポジティヴにとらえられたことはこれまでなかったのではないでしょうか――、そして、「ワンチーム」が流行語大賞にまでなるほどの盛り上がりとなったことは、自らの予想を覆す鮮烈な「記憶」となりました。

 

スポーツがもたらすもの。そこには、一人ひとりの個人から社会に至るまで、得がたく大きなものがあり、さまざまな「記憶」を刻みつけるものですが、ごたごた続きの今回のオリンピックで、何がもたらされ、何が人々の「記憶」に残るのか、注視していきたいと思っています。

 

最後になりましたが、諸先輩の皆様方には、今後とも、ご支援をよろしくお願いいたします。

 

一橋大学大学院社会学研究科 教授  尾崎 正峰